電力 p[J/s] の意味と解析法(1)意味

はじめに

瞬時電力という用語を今までも常用してきた。電力制御の技術理論も確立していると思う。電圧と電流の瞬時値も制御可能であり、電流の偏差値の微細制御さえ可能である※(1)。当然その積としての瞬時電力も制御可能である。電力工学で制御が可能であるにも拘らず、瞬時電力の意味が理解できないとはどういうことかと理解されないかも知れない。筆者自身も自分が何を理解できないと考えるのかを理解するのに困惑した。禅問答のようである。電力の単位[J/s]のエネルギーの時間微分という概念の物理的意味が明確ではない。時間軸上に電圧も電流もその波形が当たり前のように描ける。従ってその積である電力も何の違和感もなく、その波形を描くことができる。そこに科学技術とその基礎になる自然現象の本質との間に横たわる人には気付きにくい不思議な関係があると考える。電流波形が描けるとしても、その物理的意味をどれほど理解しているかという課題が残されているのだ。だから電力の瞬時値の意味が分からないのも当然と言える。それは『エネルギー』の意味が明確でないからであろう。

電力 p[J/s] の物理的意味。

電線路のある点の電力 p[W] はその点の電圧と電流の積で捉える。単位ワット[W] はエネルギージュール[J] の時間 [s] での微分値となっている。エネルギーの時間微分値とはどの様な物理概念と理解すればよいか。瞬時電力 p が電圧 v[V] と電流 i[A] の瞬時値の積であると定義されても、物理的に単位 [V] と [A] の積が [J/s] となるという感覚的に納得できる理解、安堵に至らない。精神的に安心した状態に至らない。要するに腑に落ちないのである。自分の脳の弱さを棚に上げて、[VA]=[W]=[J/s]となる理屈が理解できないと言って悩んだ。それは[V][A]そのものの物理的概念が心で納得していないからであろう。そこに不思議の原点があった。せめて、[V=(J/F)^1/2^][A=(J/H)^1/2]と[VA=(J/F)^1/2^(J/H)^1/2^=J/(HF)^1/2^=J/s]の単位、次元の換算を頼りに考えた。そこから、[J/s]の理解の旅が始まった。

エネルギー[J]の意味を知ること。

電気回路で伝送されるものがエネルギーの空間分布波であるという自然現象の実相を知ること。電圧・電流はそのエネルギー流を評価する科学技術概念であり、自然現象を理解する物理概念と捉えるには少なからず考えなければならないものがある。電気回路のエネルギー流とはどの様なものか。具体例として、負荷容量1[kW]の電気負荷を考える。電源は100ボルトの正弦波交流電圧とする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上に抵抗負荷の場合を例に、瞬時電力という意味を電圧と電流の積という観点と異なる電源からのエネルギ流-として考えた。結果としては、電圧と電流の積の電力で解釈して矛盾はないという意味になった。ただ、電圧の意味と電力の関係の物理的意味で、具体的な理解ができた。電気回路には線路ロスがあり、それを線路抵抗などで解釈するのが一般的であるが、エネルギー伝送の観点からは少し異なると考える。線路損失は電流によるジュール損というより、空間から放射されるエネルギーの損失と捉えるべきで、電圧位相遅れは伝播定数γにのみ因ると考える。電線路導体を電子が流れる訳でないとなれば、空間のエネルギー流からそのように考えざるを得ない。

瞬時電力p

電源電圧を基準に、負荷端の電圧が線路長l[m] では、γl[s]だけ位相の時間が遅れた電圧となる。負荷電力はその端子電圧の2乗に比例する。電線路の単位長さ 1[m] 当たりの空間に分布するエネルギー量はγp[J/m]となる。

電力

p=dE/dt [(J/m)/(s/m)]=γp[J/m]/γ[s/m] = p [W=J/s]

という意味で、電力を捉える。空間的広さあるいは時間経過に通過するエネルギー量で捉えないと、エネルギーの意味を捉えきれない。

むすび

時間軸上に描きながら、その瞬時電力という用語の物理的意味が理解できなかった。電線路空間にエネルギーが実在するにも拘らず、エネルギー量の時間微分という概念量の捉え方が理解できなかった。上の解釈で、伝播定数γ[s/m]による空間のエネルギー流として納得できた。しかし、何を考えても専門家の皆さんの考え方を否定するあるいは無視するような結論が多く自分に困惑しきり。本当に『流れに竿挿せば流される。流れに逆らえば窮屈だ。』の名言の通り。

参考文献※

ここに挙げた文献は電力工学の分野での過去の研究の成果といえるものだ。特に(1)はスイッチングによる微細電流制御の回路解析を論じた内容だ。しかし、その電流を物理的には実在しないと棄却した。己の専門分野を切り捨てるような、研究のはみ出しの世界を歩いた。『静電界は磁界を伴う』と『電荷』を切り捨てた。ようやく『エネルギー』によって電気現象を解釈できるところに到達できたと思う。文献(2)、(3)は電気回路解析の手法として、インピーダンスでなく、アドミッタンスが有効と考えるに至ったその原点をなす資料である。中でも(2)は特殊な空間モデルを描いて、瞬時虚電力の概念を電磁気学の微分演算子で纏めたものである。次の記事(2)回路解析で、負荷力率との関係をアドミッタンスによって考える参考にする。

(1) 金澤他:電圧型PWM変換器を用いた瞬時無効電力補償装置の動作解析と設計法 電気学会論文誌B、論文61-B 39 (1986.4.)

(2)金澤:561  瞬時ベクトル空間モデルと空間瞬時アドミッタンス 昭和61年電気学会全国大会 (1986.4)

(3)金澤:空間瞬時ベクトル解析法と交直変換器への適用 電気学会 電力技術研究会 資料番号 PE-86-39 (1986.08.04)

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