安倍首相の暴走: 原発の再稼働

現在56.7%の日本国民が原発の再稼働に反対し、賛成派は34.4%とのこと (2015年8月16日付けの東京新聞参照)。それをも無視し、今月11日、安倍首相は原発再稼働に踏み切った。再稼働されたのは、鹿児島県の川内原発の1基で、もう一基も来月には再稼働されるとのこと。猛暑が続きエアコン使用で電力需要も増えているはずだが、現在の日本で電気は十分足りている。少なくとも電力不足で停電したというニュースは皆無である。また川内原発は桜島の活火山から50km圏内で、現在桜島の噴火警戒レベルは8月16日現在、3(入山規制)から4(避難準備)に引き上げられている。近くの火山は桜島だけでなく、他にもいくつかある。このような状況の元、なぜ原発が再稼働されなければならなかったのか、理解に苦しむ。正に安倍首相の暴走と言いたい。

再稼働の件で、酷いなーと思う点がいくつかある。その一つは、事故が起きた場合、近隣住民の避難計画も定まっていないとのこと。それに原発が再稼働されると、核廃棄物が増えるだけだ。日本には既に大量の核廃棄物が溜まっていて、それをどう処理するかもはっきりした策がないまま今日に至っている。この地震・火山大国で、これ以上危険極まりない核のゴミを次世代に残すべきでない、というのが大半の国民の意見であるが、今回の再稼働に関して、日本経団連会長は歓迎の声明を出している。

2011年3月11日の巨大地震と津波の後、福島第一原発でのメルトダウンという未曾有の惨事に日本が見舞われて以来、殆どの原発はメンテナンスや原発の新安全基準に見合うための工事が施工されていて、止まったままだった。ただ福島の事故前の日本は消費電力の30%ほどを原発に頼っていた為、政府や国民は電力不足を危惧し、野田前首相が原発2基の再稼働に踏み切った経緯がある。だがそれらも13か月間稼働した後、安全基準通りメンテナンスや点検の為止められ、それ以来約2年間、原発は一基も稼働していなかった。その間市民生活にも経済活動にも支障がないまま今日に至ったのだ。確かにその間、足らない電力を補う為に原油やLNGの輸入が増え、各電力会社の経営状況は厳しいとのこと。しかし再び福島のような惨事が繰り返されれば、この国は一体どうなるのだろうか、と首相や日本経団連は思わないのだろうか?単に目先の損得勘定だけで、このような重大なことを決定して良いのだろうか?

私が酷いなー、と思う点の二つ目は、これまでと同様、もし事故が起こっても、一体誰が責任を取るのかに関して明記されていないことだ。安倍首相はこれまで、原子力規制委員会が定める「世界一厳しい新安全基準」をパスした原発だけが再稼働を許可されると言い続けた。確かに原子力規制委員会は、川内原発が新基準に適合している、と判断した。だが原子力規制委員会委員長は、「新基準に適合している」としても、それが「必ずしも安全を保障するものではない」、とも言っている。つまり事故は起こり得るのだと。それならば尚更住民の避難計画をきちっと設定しなければならない。又安倍首相は再稼働の前、新基準に適合していると判断されても、再稼働そのものは各電力会社の判断による、と述べている。つまり首相も、電力会社も規制委員会も、最終的責任から逃れようとしている態度が明らかだ。もし福島のような事故が再び起これば、被害者は被ばくし健康を損なわれ、環境を破壊され、故郷を追われ、家族をバラバラにされる。納税者は、どれだけ原発再稼働に反対してきたにもかかわらず、莫大な補償は電力会社では負担しきれないので、結局税金という形でしっかり取られことになる。

この再稼働に関して私が最もひどいなーと思う点は、福島の事故がまだまだ収束されず、今なお10万人以上の人々が故郷を追われ厳しい避難生活を強いられているだけでなく、一定の避難者に対し、今政府が故郷に戻れと圧力をかけている事実だ。また福島では小児甲状腺がんの件数が全国平均より遥かに高いのに、政府は原発事故との因果関係を正式には認めるところまでに至っていない。まるでどこか遠くのある貧しい発展途上国での話みたいだが、これが世界第3位の経済大国、日本で起こっていることなのだ。

安倍晋三や政府関係者たちは、これまで何度も福島の人々に寄り添って復興計画に取り組むと言ってきたが、口先だけでなく行動で示すべきだ。政府は2014年12月末、南相馬の避難解除をした。それも以前は被ばく線量限度が年間1mSvだったのに、基準を20mSvまで引き上げ、もう大丈夫だから自宅に帰れ、と言っているのだ。この20mSvという値は、「原発など放射線管理区域で働く作業員と同じ制限基準」だ。基準が一気に20倍も引き上げられたとは、まるで独裁者が自分の立場が悪くなると、都合よく法律を変えてしまうようなやり方だ。もちろん南相馬の人々は、今20mSv基準撤回訴訟を起こし、国を相手に戦っている。

又楢葉町という所は8月のお盆までに避難解除と言うことだったが、住民の反対で9月5日まで解除が延期された。でもこれも本当に酷い話だ。家の周りは除染後、放射線量が大分低くなっているとのことだが、野原、林、森林地帯の除染は不可能なので、少しの気象変化で線量がぐっと増えてしまうとのこと。そんな所で安心して生活出来ないし、農業や林業にも専念できない。また住民によれば、水道水は安心して使えないとのこと。それもそのはず、水道水の源である貯水ダムの底には、1kgあたり1万ベクレルのセシウムを含む泥が溜まっている。政府はダムの表層から放射能は検出されていないので、水道水を飲んでも全く問題なし、と主張するが、気象変化で泥の中の放射能が水に混ざることだって大いにあり得る。住民の不安は当然だ。

国策によって絶対安全と言われた原発を受け入れてきた福島の人々を、このように扱っている政府に対し、怒りを覚える。このような状況の下、川内原発の再稼働はすべきではなかった。

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