ネットワーク工事の現場

 今年の夏は職場のネットワーク工事に関わる仕事に明け暮れている。研究者としての仕事が脇に追いやられているのは,私の要領が悪いせいだ。もっと世渡り上手になりたいものだと思う。けれども,損して得とれというのが私のモットー。工事業者や本職SEの方々の仕事ぶりを立ち会いながら学んでいる。
 情報教育分野でもひと頃は「ネットデイ」なんて名前で,ボランティアの人々が自分たちで学校にネットワークを張ろうという活動が賑やかだった。そんな活動に参加した人たちは,きっとこういう配線工事の奥深さやネットワーク設定の構成の妙に魅せられて楽しんでいたのではないかなと思う。
 校舎の中を縦横無尽に走るケーブル。それを実現するために使われる道具の面白さや熟練したプロの仕事術はため息が出る。しかもわからなければ質問をすると親切に教えてくださるので,本当に勉強になる。構内電話の配線も,配電盤を開けてもチンプンカンプンだった部材の意味がわかると,実は背後にあるシンプルな思想が見えてきて「なるほど」と合点がいく。
 そこには単純な仕組みの積み重ねによる複雑なネットワークの成立という流行りのテーマが具体例としてあるし,専門家の知恵というか身体化した技といったものにも触れられる。複数の人間による恊働的な知の交流と,なにがしか(この場合ネットワーク)をつくり上げる創造行為が展開する場であるところも興味深い。「現場」体験がそこにある。


 私にとってラッキーだったのは,工事入札に参加してくださった数ある業者の中でも,大変コミュニケーションしやすい業者との契約が成立した事であった。もちろん,サポート体制も選定の重要要素だったのだから当然といえば当然な結果だが,とにかく,こちらがお願いしたい事を的確に汲み取り,また先方の仕事内容についても丁寧に説明をしてくれるというのは,なかなかないと思う。
 私も個人的に初級アドミニストレータ資格を取得したり,情報教育コーディネイターのオンライン講習に参加したりと,努力を続けてきたので,ある程度の技術知識は共有していることを前提としてコミュニケーションできるようになっている。それが業者との間にある程度の緊張関係を生む要素にもなっているのだろう。
 ネットワークの物理的な配線工事を請け負ってくれた工事業者の方も,とても良い。親子二代で一緒に会社を運営していて,お父さんの方は熟練の電話配線屋さんかつ優しい方で,息子さんも優しい感じながらテキパキと仕事をこなせる人なので,たぶんたまにはケンカもするのだろうけれど,仲良く連係プレーで懇切丁寧に工事を進めてくれる。私が現場でついて回りながら,「できれば,ここはこうして欲しいんですけど」とわがままを繰り返しても,「はい,いいですよ」と引き受けてくださる。それで,鮮やかな仕事ぶりなのだから,感心してしまう。たぶん専門家から見れば,簡単で大した作業でもないのだろうが。
 それから,こういう工事に登場する小道具の一つ一つも端で見ている分には面白い。これも考えてみれば,あって当然の道具ばかりなのだが,実物が使用されている場面を見るのは,本当に新鮮である。
 ネットワークの物理的な配線作業が終われば,次はネットワーク機器の設定という段階に移る。こちらはSE(システム・エンジニア)の人々の担当。職場内のネットワークをどのように区切るのかは,とりあえず工事前に打ち合わせが終わっている。それをもとに,現実の配線結果を加味して,再度個々のハブのセッティングとサーバ室のレイヤ3スイッチの設定を行ない,サーバ類のセッティングも平行して進めるという感じ。チンプンカンプンかもしれないが,要するにパズルを解いているみたいな作業である。
 あんまり詳しく書けないが,これで職場のネットワークはすっきりとした形に整う。おかげでセキュリティ対策も見通しの良い状態で取り組むことができる。サーバも新しくしたから,いろいろ新しい試みもできる。いやぁ,こういうごく普通の状態に持ってくるだけでも大変だった。これで原因不明で「ネットワークが繋がらないんですけどぉ」と呼び出されることはなくなるはず。
 さて,職場では現代GPへの申請が採択されたものだから,関係の先生方がお盆休み返上で計画を練っている。新しいパソコン導入やネットワーク工事もする予定なので,今回のネットワーク工事も先を見据えてこっそり連携。あれこれ賑やかである。