「ここが、ハウケタ御用邸……」
ウルサンデルさんに依頼を受け、私は、中央森林にあるダルタンクール家の屋敷、ハウケタ御用邸と呼ばれる屋敷へと来ていた。
荒れ果てた庭には、アーリマンと呼ばれる魔物がそこかしこに溢れ、とても人が住んでいる様には見えない。
私は、グリダニアで声を掛けた、モノゴイさん、シロさん、コザクラさんと共に、不気味に佇む屋敷内部へと侵入したのだった。
屋敷の内部には、沢山の魔物が溢れていた。
その中には、かつて、この屋敷の使用人やメイドだったらしき姿をしたものも含まれていた。
「儀式による成れの果てか…」
コザクラさんが、両手剣を構えながら呟いた。
元に戻す方法があればとは思うけれど、そうも言っていられる状況でも無さそうだし……私も、覚悟を決めて、弓を構えたのだった。
屋敷には、牢獄が並ぶ地下室もあった。
屋敷が建てられたころから存在していたのかは判らないけれど、その地下牢の数は多く、どの部屋も、最近まで使われていた事を示す痕跡が残っていた。
さらに、最深部には、拷問部屋のようなものもあった。
恐らく、使用人やメイドたちを、ここで手にかけたのだろう。
その凄惨な現場を前に、私は、犠牲になった人達へ祈りを捧げずにはいられなかったのだった。
屋敷の1階と地下室を調べ終えた私達は、一旦、エントランスへと戻ることにした。
あと調べていないのは、2階部分だけだが、そこへと至る階段には、封印が施されている。
封印を解く方法を考えていると、モノゴイさんが、地下室で手に入れた、血糊で描かれたと思われる紙辺を取り出した。
そこには、魔法陣の様なものが描かれていて、もしかしたら、封印を解くカギなのかも知れないと言う。
私は、その紙辺を受け取り、物は試しと、封印へと投げ込んだ。
そして、モノゴイさんの予想を裏付ける様に、紙辺が封印に触れた瞬間、パンッと音を立てて、封印ははじけ飛んだのだった。
2階にある、館の主人の寝室と思われる部屋に突入した私達を出迎えたのは、変わり果てた、アマンディルお嬢様らしき女性の姿だった。
試しに、名前を呼びかけてはみたけれど、彼女は、不気味な笑みを湛えるだけで、なんの反応も示さない。
既に、完全に魔物と化してしまっている様だった。
「……行きます」
人としての対応を諦めた私達は、コザクラさんの掛け声で、戦闘態勢へと入ったのだった。
魔物と化した彼女の力は凄まじく、特に、魔力は桁違いのものを持っている様だった。
その桁違いの魔力から解き放たれる、電撃系の魔法の威力は非常に危険で、掠っただけでも、そこに痺れがしばらく残るほどだった。
さらに、部屋の隅には不気味なランプが置かれていて、これが、トラップとして機能するもので、罠が発動するたびに、部屋中に電撃が走るという厄介なものだった。
そんな状況の中、さらに、増援と思われる魔物が次々と姿を現したりしたけれど、それでも、コザクラさんがお嬢様を引き付け続け、シロさんがガルーダ・エギと共に攻撃をし続け、モノゴイさんが怯まずに回復をし続けてくれたおかげで、私達は、彼女を止めることに成功したのだった。
力尽きたお嬢様は、既に人としての原形を保てなくなっていた様で、他の魔物と同じように、魔力が霧散するようにして消え去ってしまった。
なにか、形見のようなものが残れば、ウルサンデルさんに渡せたんだけど…。
「オマエが、件の冒険者だネ。……司祭様のおっしゃるとおりダ。「啓示空間」の中で、平然と戦えるなんてサ」
「!?」
その時、不意に声が部屋に響き渡った。
振り向くと、二人の仮面の男、アシエン達が立っていた。
「すでに、3つの光のクリスタルを手に入れているとは。どうやら貴様の力は、我々の想像以上のようだ」
「しかし、その力も我々にとっては少々不都合なもの。これ以上、ハイデリンの意のままに動かれても困るのだ」
そういう彼らに、私は素早く弓を構え、何時でも撃てるように身構えた。
「おっと、戦いに来たんじゃないサ。オマエの力を記銘して、ボクたちの指導者……深淵の司祭ラハブレア様にお伝えするだけだヨ」
「我々は、天使いアシエン……この星が「真の姿」を取り戻すために、闇によって光を払う存在……」
そういうと、彼らは、闇に消える様にして、姿を消したのだった。
やっぱり、仮面の男とは、アシエンの事だった。
そして、彼らは、ラハブレアの手下だとも言っていた事を考えると、組織だって動いているのかも知れない。
そして、彼らにとって、私は邪魔な存在であるらしい。
きっと、この先も、アシエンとは関わることになるのだろうと、この時、私は直感したのだった。