果たして間に合うのか・・たった一人の「修羅場体験」 漫画アシスタント体験記第38話

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いよいよ作業開始!でもその前に‥

 

前回の続きです。

さて自宅にこもって1週間、しかも毎日ノルマ一日4ページ以上ですから、まず作業入る前に作業以外のことで煩わされることのないよう、準備が必要でした。

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今ならインターネットで買い物もできますがまだネットが普及する前、しかもすべてアナログ原稿でしたからそれこそ原稿からペン先、ペン軸、消しゴム、トーンなど消耗品を作業前に補充しなければなりません。途中で買いに行っている時間がないからです。

原稿用紙やペン先などは新品を買えば何とかなりますが、厄介なのはトーンです。何番がどれだけ必要か、なんとなくはわかってもさて正確な数字が分かるはずもありません。中でも「グラトーン」は種類も多いし、どのシーンにどのくらいの濃淡のグラトーンが必要かは、それこそやってみなければわかりません。それでも多少大目に買い込めばよかったのですが、当時は懐具合も寒く、思い切って大量購入できる度胸も余裕もありません。数枚の余裕は持ったものの「なんとなく」で決めてしまいます。そのせいであとあと地獄を見るとも知らずに。

それが終わったら今度は食料品や生活必需品の買い出し。とにかくこの一週間は一歩も外へ出ない覚悟でした。以前住んでたアパートは近くにスーパーがあって、歩いていける距離でしたがその時間さえもったいないと思った私はなるべく長時間持つような食料、カップラーメンやレトルト食品などを大量に買い込み。まるで災害時の避難用の食糧みたいでした。

さあ作業開始・・と行きたいところですがそのあと私が向かった先は、そのスーパーの2階にあるコピー機

ここで何をするかというと、編集に見せるために描いた「ネーム」の拡大コピーです。とにかく作画する際にあまりモノを考えてる時間はありません。絵の構図などに時間を割いてるとあっという間に一日が過ぎてしまいます。私が取った方法は、ネームに描いた絵を拡大コピーし、それを原稿にトレースするというやり方でした。当時の私は、Mさんの影響もあってネームに描く絵もわりと細かく描いていたので、人物の構図や表情などまで結構そのまま使えるようにはしていました。これが功を奏したのです。

 

豆知識2

このやり方は一から構図を考えるより時間が短縮できます。実は作家のMさんも、作画の時の時間短縮のためにそうしていたのです。まる書いてチョンのネームでもとりあえず話が分かればいいと、大体の作家さんや新人さん達が棒人間のようなネームを描いてますが、あとで確実に作画する前提で描く場合、それよりもネームの段階である程度しっかり構図まで考えておいた方がいい場合もあります。ネーム自体に時間がない場合は別ですが、まだ余裕がある場合は、このやり方を私はお勧めしますね。作画の時はなるだけ他のことを考えずに済むようにしておく方がいいと思うからです。

 

さて準備も終えて、いよいよ作業開始。自宅にカンヅメ状態で一週間で30ページ。まさしく「たった一人の修羅場体験」が始まりました。

 

黙々とたった一人で描き始めます。もちろんそれは今までもやっていたことなのですが今回は違います。しっかりとした締め切りがあり、編集さんとも約束したことなので、いつものように「疲れたからやーめた」「次の賞狙えばいいや」などと言う甘えは許されません。常に時間に追い立てられている感じですが、最初のうちは体力も気力もあるのでなんとかかんとか進みます。

しかしページが進むにつれて疲れもたまってきます。気分転換もしないと持ちません。しかしこの「気分転換」も曲者です。

一人でやる場合は特に「邪念」との戦いです。時間が自由になりまた止める人もいないため、サボり始めると歯止めが聞かない場合があります。きっちりと時間を決め、それを守る精神力も必要です。

2日、3日と経ち、やはり少しずつ作業が遅れがちになります。やりたくはありませんでしたが一度「徹夜」をして何とか追いつこうとしました。ただこの徹夜も、いつやるかで悩みました。体力のある今のうちにやる方がいいか、それとも後に回した方がいいか。体力あるうちにやるのは、その時はよくてもそれからあとのペースが乱れたり、逆に疲れをためてしまって終盤の作業に響くのではないか・・かといって締め切り間際だと体力も残ってない可能性もある・・思案のしどころでした。

悩んだ結果、私が選んだのは『完徹』ではなく睡眠時間を削って作業する方法でした。

今まで5時間寝ていたのを3時間にして、しかもちゃんとベッドに入るのではなく作業場に布団敷いて、起きたらすぐ作業にかかれるように。

そうやって、私はありとあらゆることを考えて作業に臨んていた‥つもりでした。

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削る睡眠・・迫る締め切り・・そしてさらには・・

 

 

しかしやはり 中だるみというか、4日目あたりに疲れがどっと出て、ペンを持つのも嫌、という時間がきました。ある程度は予測できていましたが、どうにも気持ちが切り替わらない、そんなときがあります。気持ちは焦っているのに体が言うことを聞かない。結局その日は約半日、何もできないという結果となり大幅にスケジュールが遅れます。

 

そして5日目くらいになり、やはり気づくのです。

「このままでは間に合わない・・」

何せあと二日だというのにまだ15ページ近く残っている。一日7ページ強なんて、超人でも無理です。

「やはり無理なのか・・・。あんなに「やります!」とエラソーにタンカ切ってたくせに今さらどの面下げて言えばいいのか・・。作家Mさんや同僚の人たちにも迷惑かけて仕事休ませてもらったのに・・何と言い訳すれば・・。

しかし、現実問題として間に合わなければそれをちゃんと連絡しなければなりません。

泣く泣く担当さんに電話することに。

 

私「あの~・・。」

担当「あ、やっぱり無理?」

私「え?」

担当「いやなんとなく。今電話するってことはそういうことかなと。違う?」

さすがは百戦錬磨の編集さん。作家の声のトーンひとつでどういう内容かが分かるという(笑)

私「じ、実はそうなんです‥この調子だと締め切り当日にはちょっと厳しいかなと‥そんで、過ぎるにしても一日とかでなく、3日ほど過ぎてしまって持っていけるのはそのあとくらいになりそうで・・。す、すみません・・。」

申し訳なさそうに恐る恐る語る私に編集さんからのアッサリした返事

 

担当「ああ、別に締め切り少しくらい過ぎても大丈夫だよ」

 

私「…え?」

担当「少しくらい遅れても持ってきてもらえば潜り込ませるから」

 

実はこれが担当さん付きの「強み」です!。締め切りが過ぎた後、集まった原稿を編集みんなで読むわけですがその時に担当さんの手元にあれば後からその原稿の束の中に潜り込ませることが可能なのです。

(でも)別に担当さんだからってわけでもなく、少しくらい遅れて着く原稿は毎回あるそうで、よっぽど遅れる場合以外は、二、三日くらいなら大目に見るそうです。だからってアテにしちゃいけませんよ。あくまで「最終手段」ですから。締め切りに間に合わせるのは基本中の基本です。

 

というわけで、締め切りを過ぎても何とか最後までやり遂げる決意をしました。まだ半分くらいありますが・・とにかく完成させること。編集さんの恩情に大粒の涙を流しながら(ウソ)最後の追い込みに賭ける私でした。

 

ところが・・バチが当たったんでしょうか。締め切り間近、最後の最後にまた思いもよらない災難が待っていたのでした‥。

 

つづく

(この体験記は不定期更新となります。次に続いたり、しばらく後だったりします。ご了承ください。すぐ続きがお読みになりたい方は、こちらをクリックしてください。)

つらかった‥でもいい経験でもあった。「たった一人の修羅場体験2」 漫画アシスタント体験記第39話

 

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