[百人一首]83 世の中よ

世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る
山の奥にも 鹿ぞ鳴くなる

世間から逃れる道はないものだなあ
思い詰めて分け行ったこの山の奥にも
悲しげに鹿が鳴いているようだ

藤原俊成
藤原俊成(しゅんぜい)は、選者、藤原定家のお父さんです。

歌の世界では巨匠中の巨匠。
幽玄体の歌風を打ち立て、息子の定家を始めとして、
数々の有名な歌人を育てている

幽玄体って何?
人生と自然の渾然融合した詩境である。
その世界を艶なる言葉で定着する。
心と詞のめでたき媾合。
うおおっ、何だかすごい!

平忠度
平忠度(ただのり)は、平家一門が都落ちするとき
俊成を訪ねる
俊成はこの時70歳、すでに出家している
勅撰集の選者にもなっている

俊成殿
私は勝ち目のない戦に出かけます
ならばせめて、生きた証が欲しいのです
自分の歌集を渡した。
一首でも
あの世から先生をお守りさせていただきます。

忠度は帰らぬ人に

思いを酌んでと思うが、平の名を出すのははばかられる
「さざなみや 志賀の都は 荒れにしを 昔ながらの 山ざくらかな」
詠み人知らず、として入れた。

そのおかげで、俊成は91歳まで生きました。

鑑賞
この歌は、俊成が27歳の時のもの
そんな若いときから、世を捨てて出家なんだ
と思いますが
当時の流行りと申しましょうか
このちょっと前に、23歳で西行が出家しています。
86番の歌の作者です。

「世の中よ 道こそなけれ」は強い出家願望なんだけど
政情不安の当時にあって
政府批判と受け取った人がいた

俊成自身は、そんなつもりは微塵もなかった
でも
言われてみるとなるほど
そうも読めなくもない

せっかくの自信作なんだけど
封印しようと思った

それはおかしいんじゃないんですか
自分にそのつもりがないのなら
堂々としていないと

そう言ってくれたのは後白河法皇
「千載集」にも入れることにした

長らく、代表作はと聞かれると
「夕されば 野辺の秋風 身にしみて 鶉鳴くなり 深草のさと」

もちろん息子の定家はそれを承知しながら
あえて「世の中よ」を百人一首に採用した。

いきさつを踏まえての
息子としての思い
「思い入る」です。

俊成さん
良い息子持って良かったね

[百人一首]シリーズはこちら(少し下げてね)

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