[歌劇]ヴォツェック(アルバン・ベルク)

ヴォツェック

ヴォツェック

ヴォツェック(裏)

ヴォツェック(裏)

収録曲 [歌劇] ヴォツェック全3幕 LD2枚組(収録時間:98分) [ドイツ語/日本語字幕]
ウィーン国立歌劇場管弦楽団・合唱団(指揮:クラウディオ・アバド)  1987年上演

 ヴォツェック(貧しい兵卒):フランツ・グルントヘーバー(バリトン)
鼓手長:ヴァルター・ラファイナー(バリトン)
アンドレス(ヴォツェックの同僚):フィリップ・ラングリッジ(テノール)
大尉:ハインツ・ツェドニック(テノール)
医者:オーゲ・ハウクランド(バス)
白痴:ペーター・イェロジッツ(テノール)
マリー(ヴォツェックの妻):ヒルデガルト・ベーレンス(ソプラノ)
マルグレート(ヴォツェックの隣家に住む女):アンナ・ゴンダ(メッゾ・ソプラノ)
マリーの子供:ヴィクトリア・レーナー
酒場の主人:アドルフ・トマシェク(テノール) 他 

第一幕(第一場)大尉の部屋。早朝。貧しい兵卒のヴォツェックに髭を剃らせながら、大尉はもっとゆっくりやるようにと命じる。そして喋り散らす中でまずはヴォツェック自身を吟味し、続いて天気のことなどを尋ねる。ヴォツェックは時折「はい、閣下、その通りであります。」と応えるだけである。次に大尉はヴォツェックに、彼の息子について話題にする。彼はヴォツェックは善人だが道徳観念がないという。ヴォツェックは初めて口を開き、徳に恵まれるのは金持ちだけで、貧しい者の定めは過酷だと嘆く。この言葉は大尉に不快感を与え、ヴォツェックにもう下がってよい、出て行くときは音をたてるなと注意する。

 (第二場)午後遅く、ヴォツェックと同僚のアンドレスが上官のために薪を切っている。アンドレスは陽気に歌を歌うが、ヴォツェックは妄想に心を乱され、脅えている。彼はこの場所は、亡霊に取りつかれているという。辺りが暗くなるとともに、恐ろしい幻がヴォツェックを襲う。彼の耳には不気味な声や物音が聞こえる。陽が沈むと、帰営を知らせる太鼓が聞こえ、二人の兵士は兵舎のある町へと戻って行く。

 (第三場)。夕方。軍楽隊の響きが聞こえて来る。ヴォツェックの妻マリーが幼い息子と一緒に窓辺に立っている。軍楽隊が近づき、マリーは鼓手長と軽口をたたく。それを見咎めて隣のマルグレートがマリーの身持ちについてあれこれと非難する。マリーは窓を閉めて、子供に子守歌を歌って聞かせる。ヴォツェックが帰って来るが、幻に悩まされ、妙に沈んでいる。そしてとりとめのない言葉でマリーを怖がらせたあと、唐突に出て行く。

 (第四場)医者の研究室。ヴォツェックが入ってくる。彼は研究に取りつかれた医者の素晴らしい医学実験材料である。医者は彼は咳をするのに腹を立てる。咳をしないことも契約の条件だったのだ。そして更にみじめな実験材料が守らねばならない厳しくも馬鹿げたダイエットについて述べ立て、ヴォツェックの咳が止まらないので、またまた怒りを爆発させる。ヴォツェックは長々と弁解し始めるが、たちまち狂った妄想を口走り始める。医者はその異常な症状に満足し、言うことを聞くなら報酬を値上げしてもいいとヴォツェックに告げる。遂には、医者は自分の新しい科学理論によって不滅の名声が与えられるだろうと夢中になる。

 (第五場)マリーと鼓手長が家の扉の前に立っている。彼女は彼の素晴らしい体つきにうっとりし、彼は自慢げに自分がいかに素晴らしい男かを語る。彼はマリーを自分のものにしたがる。はじめは抵抗しながらも、彼女はすぐに誘惑に負け、二人は共に家の中に入る。

 第二幕(第一場)日差しの明るい朝。マリーが嬉しそうに自分の部屋で新しい耳飾りを、壊れた鏡に写して眺めている。新しい恋人のハンサムな鼓手長からもらったのだ。膝には子供を乗せ、あやして眠らせようとしている。そしてまた耳飾りに見入り、自分のみじめな運命に思いをめぐらせる。彼女は子供が寝付かないのでイライラする。ヴォツェックが不意に入って来る。彼の姿に、マリーは両手で耳を隠すが、ヴォツェックはその指の間から金色に光るものに気づき、問いただす。マリーは耳飾りは拾ったのだと弁解する。彼は疑わしげに「2つ一緒に拾うなんてことがあるのかね。」と言う。しかし彼女が神経を苛立たせると、すぐに気を取り直して彼女をなだめ、その週の給料をマリーに渡す。ヴォツェックが出て行って一人になると、マリーは自分が悪かったと後悔する。

 (第二場)医者が急ぎ足で歩いていく。大尉は彼に追いつこうとするが、すぐに息がきれてしまう。やっと医者は足を停めて、4週間のうちに死んでしまう病気の女の家に急いでいるのだと説明する。死にかけた女に対するその冷淡な口ぶりに、気の弱い大尉はぎょっとする。医者は調子に乗って、その話に輪をかける。彼は大尉自身の健康状態についても、恐らく心臓発作を起こすだろうと診断を下す。大尉はますます震え上がる。このときヴォツェックが通りかかったので、医者も大尉も一斉に彼にくってかかる。大尉はマリーとひげの鼓手長との関係をちらりとほのめかしてヴォツェックを苦しめる。哀れなヴォツェックは絶望的な疑いと恐れに投げ込まれる。彼は大尉の言葉が真実かどうか見極めようと急いで立ち去る。

 (第三場)曇って暗い日。マリーは家の前に立っている。ヴォツェックが慌ただしくやってくる。鼓手長が一緒だと思い込んでいたのだが、彼女が一人なので戸惑う。マリーは彼の頭がおかしくなったと思う。狂った妄想の中で、彼はマリーと鼓手長が一緒にいる朝の場面を思い描く。マリーは彼の質問にまっすぐには答えようとしない。怒りに燃えてヴォツェックは彼女に殴りかかろうとするが、「ほっといて!ぶたれるくらいなら、ナイフで刺された方がましだ!」という彼女の叫び声に、はっとして自分を抑える。ヴォツェックはマリーが家に入るのを見送るが、心の中に「ナイフのほうがまし」という言葉がこびりつく。

 (第四場)料理屋の庭。楽隊が演奏し、人々が踊っている。マリーと鼓手長が踊りの中に混じっている。そこへヴォツェックが入ってきて、マリーが鼓手長と一緒にいるのを見つける。二人が抱き合い、彼女が嬉しそうなのを見てヴォツェックは飛びかかろうとする。しかしダンスの音楽が止み、人々がその場を去って行ったあと、仲間たちと連れ立ってきていたアンドレスが歌い、彼の気持ちも次第に鎮まる。アンドレスはヴォツェックの側に座ってしばらく話をして去って行く。人々が踊りのフロアに戻りかける時、白痴がヴォツェックに近寄って、なにごとかささやく。「血の匂いがするぞ!」というその言葉は、ヴォツェックの心に初めて殺人の暗示を滲みこませる。

 (第五場)兵士たちが衛兵室で眠っている。ヴォツェックとアンドレスも混じっているが、ヴォツェックは眠れない。乱れた心の中で、半ば生まれかかった殺意が煮えたぎっている。酔った鼓手長がふらつきながら入ってくる。彼はヴォツェックにマリーは自分のものだと得意げに言葉を投げつける。ヴォツェックが一緒に酒を呑むのを断ると、鼓手長は彼を殴り倒す。鼓手長が憤然と部屋を出て行くと、ヴォツェックは復讐をつぶやきながら自分の寝床に足を引きずっていく。

 第三幕(第一場)夜。マリーの部屋にロウソクの灯りがともっている。彼女はヴォツェックに対する自分の不実に責めさいなまれ、聖書を読んでいる。時折自責の念にかられて叫び声を上げる。自分の運命を予知するかのように、子供を抱きしめ、両親を亡くした子供の話を始めるが、途中でやめて聖書の中の悔い改めたマグダラのマリアの物語を読む。そして「主よ、彼女に慈悲を賜ったように、私にも御慈悲を!」と叫ぶ。

 (第二場)たそがれどき。ヴォツェックとマリーが池を取り囲む林の道を歩いている。マリーは急ぐように頼むが、ヴォツェックは少し一緒に腰を掛けようと言う。彼のあまりに異様な言葉と振る舞いに彼女は怯える。マリーは逃げようとするが、彼はぐっとつかまえてナイフで刺す。マリーは死に、ヴォツェックはよろめきながら去る。

 (第三場)明りの暗い居酒屋。ヴォツェックは酒に一瞬の救いを求める。彼はテーブルで歌い、人々は調子の外れたピアノに合わせて賑やかに踊っている。ヴォツェックはマルグレートを見て、無理に膝の上に載せる。彼女は彼のために歌を歌うが、彼の手に着いた血に気づく。他の人々も周りに集まって来る。ヴォツェックは初めは茫然としていたが、猛り狂い、人々を押し分けて飛び出していく。

 (第四場)ヴォツェックは林の中の道を池へと急いでいる。月夜の番である。証拠となるナイフを探しに来たのだ。捜しているうちに彼は殺してしまった恋人の死体につまづく。やっとナイフを見つけて、それを池に投げ込む。そして空を見上げると、月は血のように赤く、その色が自分の秘密を暴くような気持ちに襲われる。ヴォツェックはナイフが岸の近くに落ちたのではないかと恐れ、取り戻しにかかる。池に足を踏み入れ、半ば錯乱して両手の血の跡を洗い流そうとする。ますます池に深く入り込み、ついには溺れてしまう。そこへ医者と大尉が通りかかる。ヴォツェックのうめき声を聞いて、二人は足を停める。医者は見に行ってみようと言うが、脅え切った大尉はこんな所にいない方がいいと、医者を引っ張って通り過ぎる。

 (第五場)翌朝。マリーの子供が家の前の通りで木馬で遊んでいる。大勢の子供がわいわい言いながら遊びに興じている。1人が走ってきてマリーの死を知らせるが、息子はその意味が分からない様子である。子供たちは怖いもの見たさに、皆で池の方へと向かう。孤児になった子供は一人で遊びながらしばらく皆の様子を見送っていたが、自分も木馬に乗ってその後を追う。(幕)

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