蒼き狼(あおきおおかみ)

蒼き狼

◆主な登場人物

ホエルン:チンギスカンの母。鉄木真が滅ぼした他部族の孤児を引き受け、親となって養育した。その子らの中には、成人してから成吉思汗の部隊の要人となった者もいる。66歳で他界する。

エスガイ:チンギスカンの父。モンゴル部族の英雄。ボルジギン氏族の首領。鉄木真が13歳のとき、敵対するタタル族によって毒殺される。

鉄木真(テムジン):成吉思汗(チンギスカン)の幼少時から青年期にかけての名前。父エスガイによって命名された。鉄木真とは、その当時モンゴル部族と争って敗れ、首を跳ねられた敵方の頭領の名前であった。

ボルテ:9歳の鉄木真に将来の妻として定められたオンギラト部族の娘。1歳年上。17歳で鉄木真の妻となる。

クラン:鉄木真がメルキトの残党を殲滅したとき出合ったメルキトの美しい娘。クランは財宝など望まず、側室としていかなる戦場にも帯同されることを望んだ。インドへ攻め入る行軍の途中で他界する。本人の希望により「氷の下」に埋葬される。

◆あらすじ

自分が蒼き狼と惨白き牝鹿(なまじろきめじか)の裔(すえ)の正統であると信じる鉄木真(テムジン)は、そうであらんがために、蒙古高原の敵対する部族を次々と殲滅し、遂に蒙古高原に敵なしの存在となった。

長老たちによって成吉思汗(チンギスカン)の名が奉られた。この時44歳。200万人の遊牧民の頂点に立った。

遊牧生活を営む限りモンゴル部族の繁栄はないと考えた成吉思汗は、東の金国を打ち破り、さらに西方への攻撃を計画してカスピ海まで進軍するなど、果てしない戦場へと向かう。

◆作品について

この作品は、「文芸春秋」昭和34年10月号より昭和35年7月号まで連載されました。

この作品について、井上靖は「歴史小説の周囲」の中で次のように語っています。

「私が成吉思汗について一番書きたいと思ったことは、成吉思汗のあの底知れぬほど大きい征服欲が一体どこから来たかという秘密である。(中略)大国金を制圧しただけで収まらず、西夏、ウイグルと兵を進め、ついに回教国圏内にはいり、裏海沿岸から、ロシアにまで軍を派したのである。それも全く彼一人の意志から出ていることである。一人の人間が性格として持って生まれて来た支配欲といったようなものでは片付きそうもない問題である。」

この点について、作品の中で井上靖は、その結論を成吉思汗の出生そのものに求めています。自分の体内に流れている血が、果たして本当にボルジギン氏族のものなのか。自分は真の蒼き狼になりうるのか。誰にも導き出しえない回答を求め、真の蒼き狼たらんとするがために、ひたすら血を求めて突き進む成吉思汗。彼にとって大切だったのは、広大な領土を治め平和に暮らすことではなかったのです。

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