感覚の不思議

脳へ送られてくる様々な感覚情報が、私達の行動の元になっています。
この送られて来る感覚情報を過去の経験を踏まえ分析する事によって、知覚へと変換され、その知覚を元に判断をしています。
しかし、この知覚は少しあやふやなところもあります。
必ずしも「知覚=感覚」となるわけではなく、感覚していないものを知覚したり、感覚したものを知覚出来なかったりする場合もあるからです。また同じ感覚から2つの知覚をしたり、複数の感覚から1つの知覚が生まれる場合もあります。
例えば、視覚情報を錯覚させる錯視というものがあります。
W・E・ヒルの「私の妻と義母」やエドガー・ルビンの「ルビンの壺」という絵があり、これは1つの絵が2種類の絵に見えます。

娘と老婆ルビンの壺

絵を見ている時に1つの感覚(視覚情報)から2つの知覚が生じている状態です。
しかも、この知覚は、一度知覚が出来るようになると自由に自分の意思で切り替える事が出来ます。
また、ダニエル・シモンズとクリストファー・チャブリスが作った「見えないゴリラ」というビデオがあります。

「見えないゴリラ」

これは、視聴者にバスケットボールをする人達が何回パスをするのか数えてくれと問題を出します。パスの回数を数えながら映像を見ていくと画面上にゴリラが出ていても気づかない(知覚出来ない)というものです。
私も実際に見せられた事があるのですが、ゴリラの存在に全く気づきませんでした。
ゴリラはわざわざ、カメラに向かって胸を叩くポーズをとっているのにです。
しっかりと意識すれば認識出来るので、視覚情報としては、感覚されているはずなにの意識が他の事に集中していると知覚されないという例です。

この様に1つの感覚が2つに知覚されたり、感覚が知覚されなかったりする場合もあるのです。
さらに複数の感覚情報が入ってきた場合に優位性があったりもします。
視覚と聴覚の差異を確認するマガーク効果というものがあります。
「が(ga)」と言っている映像に、「ば(ba)」と言っている音声を組み合わせて映像を見ると、「が」でも「ば」でもなく、「だ(da)」と聞こえるというものです。
見える情報と聞こえる情報に矛盾があった時に視覚の情報を優先してしまっているためにこの様な現象が起きてしまうようです。
腹話術を見ると人形が喋っているように感じるのも視覚を優先している一例です。

人は全体的にみて視覚情報が優位になりやすく出来ています。
情報の80%を視覚から得ているとも言われており、情報のほとんどを視覚に頼っているのも大きな原因の1つだと考えられます。
そのため、聴覚を元にして空間を認識する目の見えない人とは空間認識の仕方も違っています。
例えば、目の見えない人は、落ちたものを拾う際にも落ちた音の情報を手がかりにして手を伸ばします。部屋のドアを開けた時にどこに音が吸収されるか、反響するかで家具の位置を知り、音がどのように広がっていくかで部屋の大きさを感じとっているそうです。
目が見えると視覚の情報を優先してしまうため、このような感じ方はしません。
そもそもどこから音が聞こえたかというのも分かりにくいと思います。

フェルデンクライス・メソッドのATMレッスンでは、お手本を示さずに口頭指示のみでレッスンを進めます。お手本を示すとそれを真似する事に一生懸命になってしまい、自分の身体の感覚に注意を向けづらくなるのが理由ですが、視覚情報に頼り過ぎるからというのも理由の1つなのかもしれません。
まずは、目を閉じて“視覚”以外の感覚、特に固有感覚に注意をしっかりと向けてみてください。