だしの研究6

『身近な調味料をもっとよく知り、おいしく使おう!』

「食のラボラトリー」は、普段からおなじみの食材や調味料をもっとよく知り、おいしい使い方を研究しようという思いから始まりました。その第1弾が“塩の研究会”。
塩そのものの味を比較したリ、調理してみると、新しい発見がいっぱいありました。
そこで、今年は塩に続き、さまざまな調味料を研究することにし、砂糖、みりん、甘味料、料理酒、酢などの身近な調味料を改めて見直し、比較研究をしてきました。
そして、昨年11月からは「だし」をとりあげています。

8.だしの研究⑥
「だし」の研究の6回目。かつお節や昆布などの単体のだし、合わせだし…その他の味比較をしてきましたが、今回のテーマは先月に続き「煮干」です。

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◉同じ種類の煮干しでも、大きさが違うのは?
メンバーの飯塚さんが毎年取り寄せしている焼干は「年によって、大きさがずいぶん違う」という話になりました。そういえば、煮干の大きさの違いはどこからくるのでしょう?個体差だけではないはずです。もっともおなじみの“いりこ”はカタクチイワシの煮干ですが、大きさによって呼び名も違ってきます。10㎝以上の「大羽(オオバ)」から、「中羽(チュウバ)」、「小羽(コバ)」、そして2.5~4㎝は「カエリ」と呼ばれ、それ以下の小さなものはシラスで、これは主に生や釜揚げで食べられます。
つまり、大きさの違いは、ほとんどは漁獲の時期の違いによるものということになります。
6月中旬ころ獲れる「大羽」は、産卵後の親魚で、一番大きな“いりこ”です。産卵した卵がかえるのは7月上旬で、この頃からシラス漁がスタートしますが、7月中旬になると、少し大きくなった「カエリ」が獲れ、中旬~下旬になると「小羽」や「中羽」が獲れることで、それぞれ大きさの違う煮干になるのです。

◉とにかく鮮度のいい煮干を選ぶこと
“いりこ”に使われるカタクチイワシは、鮮度が落ちるのが速いといわれる青魚です。そのため、魚を獲ったらいかに速く加工できるかで、いりこの鮮度やおいしさが決まってくるとか。
昔からおいしい“いりこ”で知られる香川県の「伊吹いりこ」は、カタクチイワシの漁場と煮干にする加工場が非常に近く、魚がとれてから30分以内には加工場に運ぶことができるため、鮮度のいい“いりこ”ができるといわれています。
その“いりこ”、大きさが違えばだし汁の味も違ってきます。小さいものはあっさりとしただし汁に、大きくなるほどだし汁のうまみは強くなるため、料理によって使い分けるといいそうです。

<煮干&煮干しだしの料理> 
今回は、先月試飲&試食した変わり種の煮干を使い、料理を作ってみることにしました。普段めったに手に入らない、変わり種の煮干とは、①タイ煮干(レンコダイ・島根産)、②アジ煮干(舞鶴産)、③サバ煮干(九十九里浜産)、④アゴ焼干(長崎・平戸瀬戸産)⑤サンマ節、の5種。

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①タイ煮干
水出ししただし汁はとにかく上品でおいしい。海水と同じ3%の塩分がほどよく、このまま飲み続けられる。臭みはもちろんなし。煮出したらあっさり、薄味になった。タイの煮干とだし汁を用いて鯛飯にしてみては? 

②アジ煮干
味わい深く、おいしい。青魚の臭みはまったくない。青光りしているので、やはり煮干自体の鮮度のよさもあるのだろう。タイの煮干のだし汁よりは魚っぽく、うまみもある。南蛮漬けのように漬け込んだり、酢だけに漬けこんでもよさそう。船場汁にも合いそうな気がする。

③サバ煮干
水出しのだしの段階からすでに黄色味があり、脂が浮いているが、臭みはなく、煮干としての鮮度を感じる。サバの味噌煮やブリ大根系の料理を想像すると、根菜系の煮物に合う気もする。

④アゴ焼干
水出ししただし汁は上品な味。タイとはまた違った味わいのおいしさがある。コクがありながら、後味はすっきり。焼干になっているため、香ばしさも加わっていておいしい。

⑤サンマ節
煮干というより、やはりサンマ“節”。水出ししただし汁だと燻製香が強く、香ばしさもある。煮出すと、香ばしさは弱まる。やわらかくもどすことができれば、身欠きニシンのような使い方ができるかも。あるいは切って芯にし、昆布巻きにする…等。

先月の食ラボ評価(上記のコメント)を参考に、料理を作りました。
◎鯛と白粥の銀あんがけ 長島作
「鯛の切り身を焼いて粥にのせ、タイの煮干のだし汁で作った銀あんをかけたもの。今回はあえてだし汁にかつお節を使わず、タイのうまみだけで銀あんにしてみました」。
タイの煮干でとっただしが何とも上品。
なるほど、かつお節の風味のないほうが、むしろ鯛そのものの味は引き立つ印象をもちました。

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◎アジの煮干の“揚げない”南蛮漬け 谷作 
「アジの煮干(小さめ、豆アジの煮干)をオーブントースターで焦がさないよう注意しながらカラリとあぶる(またはフライパンでサッと炒る)。
煮干のだし汁、酢、砂糖、赤唐辛子を温め、薄切りの玉ねぎとともに漬け込み、南蛮漬けにしたもの」煮干は油で揚げず、あぶるだけ。
それを漬け込めばいいので、手間いらず。それでいて煮干は香ばしく、硬さもちょうどよく、おいしく食べることができました。

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◎大根と大豆の甘露煮   久保田&飯塚作
サンマ節はあらかじめ水につけておき(1晩以上)、水出しの段階で大根を加えてゆっくり煮ます。蒸し大豆を加え、砂糖、しょうゆ、酒、みりんで甘露煮にしたもの。
「サンマ節は、煮て軟らかくなったら、具としても食べたかったのですが、煮ても煮ても軟らかくはならなかったので、だしをとったあと、キッチンペーパーで漉しました」。
サンマ節は、いくら煮ても身欠きにしんのようにはなりませんでしたが、うまみの強いだしの風味で大根や大豆がおいしく煮えました。

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◎長芋ときのこの和風ピクルス  長島作
「焼きあごの煮干でとっただしを、酢、砂糖、塩、赤唐辛子とともに鍋で温め、サッと湯通しした長芋としめじを漬け込みます」。
コクがありながら、すっきり上品なあごだしの味わいが、和の野菜にぴったりでした。その時期の旬の野菜を漬け込んでおけば、常備菜として重宝しそうですね。

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◎新玉ねぎとみょうが、青ねぎの薬味マリネ  牧野作 
「新玉ねぎ、みょうが、青ねぎを、サバの煮干のだし汁とぽん酢しょうゆを同割にしたものに漬け込みます。
唐辛子の代わりに粒マスタードを入れるのがポイント」「サバの煮干は大きいからでしょうか。煮てもなかなか軟らかくならなかったので、
残念ながら煮干そのものを具として食べるのはあきらめました」というわけで、野菜だけのマリネになりましたが、サバの煮干のだし汁はイワシ以上のコクでした。

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◎タイの煮干の鯛飯
といだお米に、タイの煮干とタイのだし汁を加えて炊き上げました。今回はあえて生の鯛や昆布(だし用)を入れずに炊き上げました。
鯛そのものが入っていないぶん、見かけはどうしてもさみしい感じです。
また、今回は塩加減が少し足りなかったせいか、全体的にあっさりし過ぎてしまいました。
けれども、もしこれに生の鯛を加えるならば、切り身(4人分で2切れ程度)でも充分いいだしが出て、鯛飯の豪華さも出ることでしょう。

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◎豆腐と卵、トマトの中華風スープ  久保田&飯塚作  
サンマ節はあらかじめ水につけておき(1晩以上)、さらにこれをゆっくり煮出してだしをとります。
ここにしょうが、豆腐、プチトマト、溶き卵(水溶き片栗粉を加えたもの)を加え、塩で調味し、最後にごま油をたらし、青ねぎを散らす。
「通常は鶏ガラスープでだしをとるところですが、サンマ節を使ったら、スープがまろやかでやさしい味になりました」。

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“だしの研究”の6回目。前回みんなで試食&試飲した「変わり種煮干」を使い、料理を作ってみました。タイの煮干は、前回の試飲時から期待していましたが、その通り上品で上等のだしがとれました。持ち帰ったタイの煮干を使い、自宅ですまし汁を作った牧野家では、高校生の息子さんから「うまいーっ」と絶賛されたそうです。また、全員一致で気に入ったのがアジの煮干。だし汁の味もおいしかったのですが、今回作った“揚げない”南蛮漬けにも驚きました。だしをとる煮干として以上に、便利でおいしい食材として、いろいろ使えそうです。 一方で、最近行列のできるラーメン店でも使われているサンマ節は、コクとうまみのあるだしがとれることはわかりましたが、煮出す時間を考えると、一般家庭で使いこなすのは少々むずかしそうな気もしました。いずれにしても、普段めったに手に入らない煮干のだし汁の試飲や料理の試食は想像以上のおもしろさでした。

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