女子マラソンの元世界記録保持者で、女子スポーツ界で初の国民栄誉賞を受賞した”Qちゃん”こと高橋尚子。 2005年11月、右足の故障をおして東京国際女子マラソンに出場したQちゃんは、2時間24分39秒の大会歴代3位の記録で優勝。今回の記事は、その時に書いたもの。 静 炉巌 |
”Qちゃん”こと高橋尚子。Qちゃんと言えば、真っ先にお菓子のCMでヘンな踊りを踊ってる場面が浮かぶけど、そんな私だって今回の東京国際女子マラソンは、ブランクがあった33歳の陸上選手の、まさに選手生命をかけた戦いだということぐらいは知っている。
この戦いは見逃してはならない。私はマラソンの開始時間になると、TVの前のソファを陣取り、テーブルには麦茶とキャラメルコーンを準備して完璧な観戦体勢に入った。
一人の人間が復活をかけた一戦に臨む姿にはいつでも惹きつけられる。
かつて小出監督は”Qちゃんの走る素質は天性のものだ”と言った。
おそらく”Qちゃんの口が大きい”ことも、マラソンで大量に酸素を消費するための天性の素質なのであろう。
遂にマラソンがスタートする。序盤で大柄な外人選手に囲まれた中では、Qちゃんはなんかチョコチョコしててフザけて走っているようにも見える。
だが勝負はまだはじまったばかり、この一戦は一秒だって目を離すことはできない!
…が、気がつくと私は眠りから覚めたところだった。
Qちゃんはゴール直前を走っている。私は序盤ですぐに眠りに落ちていたのだ。
その証拠に飲み物もキャラメルコーンも少しも減っていない。ソファに手をあてるとまだ温かい。つまりついさっきまで誰かがここで寝ていたことになる?!
状況から推理すれば、その誰かとは自分以外にはありえない! しかも記憶が序盤以降は一切ない!
Qちゃんが一生懸命に走っている間、自分は一生懸命に寝てしまった…。いや、でも、ある意味これはお互いが別のリングで戦っていたとは言えまいか?
Qちゃんはアスファルトというリングでマラソンを、私はソファというリングで快眠にのぞんだ。
まさに異種格闘技と言ってもいい。マラソン VS 快眠。Qちゃんのゴールまでのタイムと、私が快眠から覚めるまでのタイムとどちらが早いのか?!
そして、私が目を覚ましたのはQちゃんがゴールする直前。ということは私は、Qちゃんの走りより早かったのだ。私はQちゃんに勝った!
マラソンVS 快眠という一騎打ちでQちゃんに勝ったんだ! おめでとうオレ!! ウィナー、オレ! そっかー、Qちゃんに勝っちゃったか…。
私は互いの健闘を讃えて、麦茶で祝杯をあげた。
Qちゃん、オレには負けたけど、マラソン優勝おめでとう!
静 炉巌(2005/11/20)